Story : Beer Trip

「こんなビール、飲めたもんじゃないわ」リーフマンスを作った一言

ベルギー初の女性醸造家ローザ・メルクスの放ったこのひと言から改革が起きたリーフマンス。1679年に創業し、ベルギー最古の醸造所のひとつでありながら、妥協を許さず、世界中を魅了するオリジナルかつエレガントなビールを造り続けている。筆者はそんなフルーツビール界の女王に君臨しているリーフマンスの醸造所ツアーに参加してきた。リーフマンスの知られざる秘話をご紹介しよう。

まず、リーフマンスというビールについておさらいしておこう。

特徴的なのは、チェリーを漬け込んだフルーツビールであること。温めてホットビールにしても、スパイスやフルーツを使ってカクテルビールにしても、氷を入れてオン・ザ・ロックにしても美味しい。そう、リーフマンスはビールの常識を覆す新しい飲み方ができるベルギー自慢のフルーツビールなのだ!

アルコール度数が3.8%とかなり低く、ビールとしては低カロリーの88kcalで全世界のビールの苦手な人や女性に多く飲まれている。

この飲みやすさは、5種類のベリー系フルーツをふんだんに使用しているため。ジュースやカクテル感覚で飲めてしまうのだ。ちなみにベリー系フルーツ5種は、ストロベリー、ラズベリー、チェリー、ブルーベリー、エルダーベリー。

さて、リーフマンス醸造所は、ゲント市(Ghent)から電車で30分の場所に位置するアウデナールデ市(Oudenaarde)にある。駅から醸造所へは歩いても行けるが、今回はバスで行くことにした。バス停は駅前にあり、「リーフマンス醸造所に行きたい」とバス運転手に尋ねれば、親切に教えてくれる。話は変わるが、ベルギー人は大変親切だ。だいたいの人は英語を話せるので、迷った時は気兼ねなく人に尋ねると良いだろう。

バスが走り出すと、見えてきたのは美しい建築物。ゴシック建築が、街のシンボルとして圧倒的な存在感を放っている。アウデナールデ市はゲント市に次ぎアート好きが集まる街としても有名だ。

所要時間およそ10分で醸造所近くのバス停に到着。すでに、そよ風に乗ってほのかにチェリーの香りが漂ってくる。バス停から見える巨大な醸造釜がリーフマンス醸造所の入り口だ。

ベルギー最古の醸造所のひとつであるということで、古い建物を想像していたが、予想に反して雰囲気のある素敵な煉瓦造りの建物に、コミカルなアートが描かれている。リーフマンスのブランドカラー「赤」の装飾がとても愉快だ。早速ガイドさんに醸造所の中を案内してもらった。

中に入ってさらに驚いたのは、ファッショナブルな醸造所であること。リーフマンスの大瓶で作ったランプが階段スペースの天井から吊り下げられている。醸造所なのに、洗練された雰囲気だ。

ここからは展示スペースだ。初期のリーフマンス醸造所で実際に使われた醸造釜があり、隣に説明が書いてある。当時、熱湯をまんべんなくかけるため、釜の直径サイズに合わせて作られたパイプに無数の穴を開け、それを上から回転させてスプリンクラーのように熱湯を撒いていたのだとか。

リーフマンス醸造所内を歩き進むと、当時実際に使われていた機械や道具などを見ることができる。ここは自由に見ることができるスペースだ。興味深かったのは他言語で書かれたリーフマンスのラベルや、手動でコルク栓をはめる機械など。我々が見たことのないリーフマンスのラベルや、瓶、ラッピングを見ることができるのだ。

奥へ進むと、そこには歴史をよむことができる廊下が出現。今から339年前の1679年、日本は江戸時代で徳川綱吉が5代将軍となる前年、ベルギーではヤコブ・リーフマンスがアウデナールデ市に醸造所を創業した。それからおよそ200年が経った1900年代、リーフマンスはブラックチェリーを発酵タンクに詰め始める。

そして、忘れてはいけないのがこの女性の存在。ベルギー初の女性醸造マスター、ローザ・メルクス。40年以上も醸造の指揮をとっている。彼女のひと言がリーフマンスの味を大きく変えることになったのだ。

“こんなビール、飲めたもんじゃないわ。”

ローザ・メルクス

当時のベルギーでは、フルーツビールは酸っぱいビールとして親しまれていた。オーナーは秘書だったローザにリーフマンスの味の感想を聞かせてほしいと懇願した。快く引き受けたローザがリーフマンスの味見をした際、あまりにも酸っぱいと感想を述べたのであった。それが、今日まで世界中から愛されるリーフマンスを作り上げることになったのだ。彼女の厳しく妥協を許さない姿勢は、従来のベルギービールから一線を画す新たなチェリー・ビールを生み出し、リーフマンスの歴史を大きく変えたのだ。

ペーパーラッピング包装を導入したのは、リーフマンスが初めて。ローザの功績を称えて、すべてのペーパーラッピング包装には彼女のサインが記されている。ローザは退職後も醸造マスターとともに、リーフマンスの味と品質を確認するため醸造所に足を運んでいるのだとか。ちなみに、彼女が特にお気に入りなのはグーデンバンド。

たくさんのリーフマンス愛を感じることができる展示場を見学した後は、リーフマンスを実際に出荷する作業場所へ案内してもらった。リーフマンスは冬期に醸造され、夏期まで保存できるようにブレンドされる。1週間の発酵のあと、貯蔵室で2ヶ月から1年間の熟成行程に入り、熟成された強い味わいのビールを若くて新鮮なビールと合わせ、二次発酵を経てバランスよく仕上げる。甘さの余韻が残る独特の苦みは、若いビールと熟成したビールの絶妙なブレンディング技術によるものだ。

一通り醸造所内の見学を終えると、まるでワインセラーのような冷たくて暗い倉庫に案内された。ここは一体…?

ここに眠っているリーフマンスは、ヴィンテージビールなのだとか。20年以上前のものから、数年前のものまでさまざまな年代のリーフマンスが無造作に眠っている。

ガイドがひと言「さっ、どれ飲みたい?選んでいいよ、あとで飲もう」。

先ほど選んだヴィンテージビールは、ローザの大好きなリーフマンスグーデンバンド。年月を感じさせるラベルを優しく剥がしていき、コルク栓を勢い良く抜く。ポンッ!と気持ちのいい音。その瞬間から強いアロマが漂ってきた。

さて、待ちに待った試飲の時間!口に入れた瞬間、香りが鼻の奥まで広がり、酸味よりも甘味のほうが強い印象だった。寝かせて瓶内発酵をしたことにより、糖分が増えたのだとか。

ヴィンテージビールの他にも、リーフマンスブランドが試飲可能。今回は特別に全種類試飲させてもらった。写真は左から、ここでしか飲むことのできないチェリーを入れる前のブラウンビール、リーフマンスグーデンバンド、リーフマンスクリークブリュット、リーフマンス・オン・ザ・ロック、リーフマンス・イエロー(通常は2種類のみ試飲可能)。

飲み比べると、味の違いが顕著に!日本では飲めないブラウンビールがとても美味しく、赤ワインのように香りが鼻から抜けて、程よい酸味と甘みのバランスの絶妙な味わいが印象的。

ベルギーへ行く際、チェリー香るリーフマンス醸造所へ足を運んでみては?

リーフマンス醸造所


2時間のツアー
1人12ユーロ(2種類のリーフマンス試飲付き)/11歳未満無料
月曜日〜土曜日の毎日
ツアー時間 ①10:00~ ②14:00~ ③17:00~

ゲント(Gent)から電車で30分のアウデナールデ駅
または、ブリュッセル中央駅からアウデナールデ駅まで電車で55分
アウデナールデ駅から徒歩約20分、バス10分、自転車5分

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