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Belgian Beer

【SIP Story】ベルギービールの転換点に、立ち会っている。

ベルギー醸造所組合(Belgian Brewers)*が今年発表した2025年次報告書には、こんな言葉があった。「2025年は、私たちにとって試練の年だった」。
消費が落ち、輸出が落ち、醸造所の数も減った。でもその裏側には、厳しい状況でも前を向いている人たちの話がある。ベルギービールの現在地を、正直に伝えようと思う。

ベルギー醸造所組合(Belgian Brewers)*とは、ブリュッセルに本部を置く世界最古のプロフェッショナルな団体。ベルギービールの伝統と高い品質を守り、ユネスコ無形文化遺産にも登録された「ベルギービール文化」を世界中に広める活動を行っています。

01.
その数字が、すべてを物語っている
The numbers don’t lie

2025年、ベルギーの醸造所数は411から395へと減少し、400の大台を割り込んだ。

数字だけ聞いてもピンとこないかもしれない。でも少し想像してほしい。昨年1年間で、28の醸造所が永久に扉を閉じた。新しく開業したのは、わずか12。差し引き16の純減だ。それぞれに醸造家がいて、レシピがあって、地元の常連がいた。そのすべてが消えた。
新規開業の数にも注目してほしい。2023年は23件、2024年は27件あった新規参入が、2025年はたった12件に急減している。閉鎖が減るより先に、挑戦者が減っているのだ。

国内でのビール消費量は3年連続で減少。2025年は前年比3.2%のマイナスで、小売・外食の両チャンネルで落ち込んだ。輸出も例外ではない。輸出量は前年比4.8%減の1,424万ヘクトリットルに落ち込み、EU域内は▲3.4%、EU域外にいたっては▲13.7%という大幅な落ち込みとなった。

ベルギービール生産量の約70%は輸出に回る。世界が買わなければ、醸造所は立ち行かない。

02.
なぜ、こうなった
What’s behind the decline

一つの原因で片付けられる話ではない。Belgian Brewers CEOのクリシャン・マウドガルは「生産コストの上昇、エネルギー危機の余波、原材料インフレ、地政学的不確実性」を挙げた。

地政学的な混乱は、輸出市場をダイレクトに揺さぶった。イギリス向け輸出は24%超の大幅減となり16万7千ヘクトリットルを下回る一方、スペイン向けは10%超増、ドイツ向けは約19%増という明るいニュースもあった。

国内では、飲み方そのものが変わってきた。ビールの消費の70%が自宅での飲用となり、その割合は2025年にさらに上昇。バーやカフェで飲む文化が薄れると、醸造所にとっては大切な「顔の見える消費」が失われていく。

もう一つの壁が、社会的な「アルコールへのまなざし」の変化だ。ベルギー政府はすべての酒類広告に「アルコールは健康を害する」という警告文の義務化を検討している。Belgian Brewersは「適度な楽しみと、問題のある飲酒を同一視するのは不公平だ」と訴えている。お酒の乱用を防ぐことと、ビール文化を過度に規制することは、切り離して考えるべき問題のはずだ。

03.
それでも醸造家たちは、前を向いている
Brewers are investing in tomorrow

厳しいデータの裏側に、もう一つの顔がある。

ベルギーの醸造業界全体の投資額は2025年、2億1,300万ユーロに達した。これは前年の1億7,800万ユーロから約20%の増加だ。消費が落ちているのに、投資を増やした。これはどういうことか。

未来を信じているということ。

もし先が見えなくなったとき、人は財布のひもを締める。投資をやめ、様子を見る。でもベルギーの醸造家たちは逆のことをした。設備を刷新し、新しいカテゴリーに挑み、より持続可能な醸造を目指してお金をかけた。その姿勢には、単なる強がりではなく、自分たちのつくるものへの確かな誇りが見える気がする。

売上規模は41億ユーロ、直接雇用6,600人超、間接雇用は約50,000人。ベルギービールは今も、国の経済を支える基幹産業であり続けている。投資の矛先は主に「サステナビリティ」と「アルコールフリービール」の2本柱。どちらも、時代の変化に正面から向き合った選択だ。「苦しいときこそ、攻める」。言葉にすれば陳腐だけれど、数字を見るとそれが単なる精神論ではないことがわかる。

04.
ノンアルコールという新しい扉
The alcohol-free frontier

2014年から数回のベルギー渡航を経験してきた筆者が、ここ数年で最も変化を感じるのが、ノンアルコールのラインナップの豊かさだ。

以前は「ノンアルは片隅にちょこっとある」くらいのイメージだったのに、今はBBWでおなじみの人気銘柄のノンアルバージョンが、ベルギー現地では当たり前のように並んでいる。昨年訪れたベルギーのビールお土産ショップでは、なんと冷蔵庫が何台もまるごとノンアルコールで埋まっていた。思わず二度見してしまった。

BBWに招待したことのあるアーティストも、ベルギーに住む友人も、最近ノンアルを選ぶことが増えたと口をそろえる。「飲めなくなった」のではなく、「ノンアルでいい」という感覚。そのニュアンスの違い、伝わるだろうか。

現在、ベルギーでは150種類以上のアルコールフリービールが流通している。複雑なフレーバー、クリーミーな泡、香りの重なり。「アルコールを抜いたビール」ではなく、「ノンアルという選択肢」として完全に成立している。危機のなかのイノベーション、という表現がぴったりくる。

05.
2026年、UNESCO登録から10年
UNESCO heritage: 10 years on

2016年、ベルギービール文化はユネスコ無形文化遺産に登録された。「まるでビールのW杯で優勝したようだ」と当時のベルギー政府担当官は語った。1,600種類以上のビールが醸造されるベルギー。修道院で受け継がれる伝統、野生酵母が生み出すランビックの神秘、ビールを軸に育まれた食文化と祭りの文化——それらすべてが、一つの「生きた文化遺産」として認められた瞬間だった。

2026年は、その10周年にあたる。
数字だけを見れば、確かに苦しい年が続いている。でも10年前に「これは人類の宝だ」と認められた文化は、そう簡単には消えない。醸造家たちはそれを知っているから、厳しい状況でも投資をやめないのだと思う。

ベルギービールを、日本で応援するということ

こうして数字と向き合ってみると、日本でベルギービールを飲む一杯の重みが、少し変わって見えてくる気がする。私たちがグラスを手に取るとき、それはベルギーの醸造家が積み上げてきた歴史と、今この瞬間の努力に、直接つながっている。

ちなみに、今回参照したBelgian Brewersの年次報告書には、毎年ベルギービールウィークエンド(BBW Japan)のページも掲載されている。——日本でのBBWの取り組みが、ベルギー本国のレポートに記録されているという事実は、なんだか誇らしい。

BBWの後半戦、お待ちしています!京都は10月8日(木)〜12日(月・祝)、前売チケットは8月発売予定。新宿は12月2日(水)〜6日(日)。各会場で、ベルギーの醸造家が丹精込めた1杯をぜひ。

難しいことは考えなくていい。
グラスを傾けて「うまい」と思ったその瞬間が、ベルギービール文化への最大のエールになります!

Cheers!! 🍺

✍️ Keiko
ベルギービールウィークエンド事務局 コンテンツマネージャー

ベルギービールに出会って15年、BBWに携わって13年目。ベルギーでの1ヶ月間の滞在経験を持ち、ベルギービール、食文化、音楽などベルギーのカルチャーをこよなく愛する。現地取材、醸造所巡り、イベント運営を通じて、その魅力を発信中。ベルギービールプロフェッショナル認定資格保有。

Instagram: @keiko.shio

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