Story : Beer Trip
まだトライしてないの?今こそ酸っぱいビールの扉を開くとき!
May 2019
ビールに求めること。それは喉越し・キレ・爽快感!けど、それだけではもう通用しない世の中になってきた。クラフトビールのブームによって、今、注目されている新しいタイプのビールがある。それが「酸っぱいビール」!ベルギーの醸造家へのインタビューや料理とのペアリング情報などで知識を深めて、酸っぱいビールの世界への扉を、いっしょに開いてみようじゃありませんか。
01. どうして今、みんな酸っぱいビールにはまってるの?
Why is everyone suddenly obsessed with sour beer?
まずクラフトビールブームとは、アメリカから火がつき一気に世界中へと広まったビールトレンドのこと。第1クラフトビールブームでは、ホップを大量に使った、アロマティックかつ苦味が特徴的なIPAビールが世界中でスタンダードなラインナップに加わった。このブームのおかげで、日本でもクラフトビール、特にIPAが飲める料飲店が増えたのだ。そして、その後徐々に人気を集めているビールがある。それが酸っぱいビールこと「サワービール」だ。サワービールも、アメリカのクラフトビールブームがきっかけで世界中に広まった。このサワービールは突如として2017年からホットなビールとして流行りだし、世界中のビールファンは苦味から酸味を重要視としたムーブメントに移行してきた。いわゆる第2クラフトビールブームといえよう。
ここであなたに質問だ。
「酸っぱい」と聞いて、どんな酸っぱさを想像するだろうか?読者のなかには「レモン」「酢」「梅干し」といった、酸っぱいアイテムが頭に浮かんだかもしれない。どれも正解。でも、それだけじゃないの。ほんのり酸っぱい木苺のようなものから、梅干しの100倍も酸っぱいビールまで、味の種類は膨大。酸っぱいにも、種類があるのよね。でも忘れてはいけないのは、酸っぱいビールの発祥の地は、我らが誇る「ベルギー」だってこと!次で詳しく見てみましょ。
02. 酸っぱいビールの起源はベルギー
Sour beer comes from Belgium!
第2クラフトビールブームに乗っている酸っぱいビールの発祥の地は、実はベルギー。飲まれ始めたのは、クラフトビールブームのはるか前!
多くの作品をベルギーで描いた画家、ピーテル・ブリューゲル【Pieter Bruegel(Brueghel)】による「農民の婚宴」にランビック・ビールが登場しているのだ!作中の左手前で男性が壺に入れられた飲料を容器に移している様子がわかる。その飲料がランビック・ビール。なお、正面を向いている女性が花嫁であることは確かだが、花婿がどこにいるのかは不明なのだとか。
ランビック・ビールの絵は、この他にも彼のいくつかの作品に登場している。「農民の婚宴」は1568年の作品。そう、つまり450年ほど前からランビックビールは飲まれていたのだ!なんと歴史が深いことか。
発祥の地であるベルギーの酸っぱいビールは、4つのカテゴリーに分けることができる。
レッドビール
西フランダース地方で醸造される伝統的なビール。色合いからレッドビールと呼ばれ、麦芽には小麦を使用せずに大麦や赤大麦を原料とし、一切フルーツを使用しないのが特徴。まるでフルーツを漬け込んだかの様な酸味と甘さを感じるので、初めて飲む人は「フルーツが原材料に入っている」と思ってしまうかも。ステンレス製のタンクで最初の発酵を行い、長期熟成のステップで巨大なオーク樽へ移して半年以上寝かせる。するとカラメル、タンニンがビールを香りづかせ、オーク樽内で乳酸菌と酢酸菌が混じり合い、複雑な酸味が生まれるわけだ。味わいと見た目、それはもはや赤ワインのよう。
ブラウンビール
東フランダース地方で醸造される茶褐色のビールを、ブラウンビールと呼ぶ。レッドビールとの違いは、一体何か。それは、木樽もしくはタンクで熟成するということ。レッドビールは大きな木樽(オーク樽)で熟成されるが、ブラウンビールは金属タンクで熟成されている。それに加えて、一次発酵させた新しいブラウンビールと、すでに熟成させておいた古いブラウンビールをブレンドし二次発酵させることで、複雑な味わいを生み出している。ブラウンビールを醸造する箇所が少なく、生産できるビールも数少ないため、とても希少。甘みと酸味がほどよく、非常に飲み心地のよいビールだ。
ランビックビール
ベルギーは四国ほどの面積しかない国。首都ブリュッセルの南西に位置するパヨッテンラント地域や、ゼネ川沿いでのみ醸造される希少価値が高く伝統的な酸っぱいビールが、ランビック・ビールと呼ばれるもの。この地域に生息している野生酵母を使用すると、ビールには欠かせないあの”炭酸”は消え、強い酸味のビールとなるのだ。通常3年熟成させて造られ、これをベースにしたフランボワーズ(ラズベリー)、クリーク(チェリー)など、ワインのような味わいを持つ果実系ランビックも多くの人に親しまれている。もう一度念を押して言っておくが、生産地はブリュッセルとその近郊一部のみ。
グーズビール
強い酸味が特徴的なグーズビールは、ベルギービールファンにとって外せない独特のビール。発酵方法はランビックと同じく、野生酵母を使った自然発酵だが、熟成1年の若いランビックと、2〜3年熟成した古いランビックを混ぜたものをグーズビールと呼ぶ。若いランビックは完全には発酵していないため、瓶内二次発酵により炭酸ガスのあるビールとなる。またワインのように瓶内発酵が進むため、およそ10〜20年保存ができる。寝かせたワインと同じように、寝かせたグーズビールも、年月が経つと旨味が増すのだとか。大人な味わいを楽しめる、大人のためのビールと言っても過言ではない。
03. 醸造マスターへの独占インタビュー!
Let’s ask the Belgian brew masters!
さぁ!お待ちかねのインタビュー!今回SIPマガジンでは、ベルギーの酸っぱいビールを代表する2つの醸造所にお話を伺った。双方の回答、そして意見はとても興味深くて面白い。なんてったって、酸っぱいビール市場を誰よりも間近に見ている人たちなのですから。それでは、インタビューを通して彼らの情熱と想いをお届けしよう。
ビール輸出担当 アモリ・ケルヴァン・ドーツ・モールゲム(Amaury Kervyn d’Oud Mooreghem)
醸造所:ヴェルハーゲ醸造所
代表ビール:ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ
01. あなたのビールのユニークな点は?
WHAT MAKES YOUR BEER SO UNIQUE?
「ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ」は、複雑さを兼ね備えたユニークなビールです。 複合発酵による発酵法で造られたエールビールを、オーク樽で熟成させた下面発酵ビール。心地よいフレッシュな後味を持つ、甘くてフルーティーなエールはローストモルトと苦味の少ないホップで醸造されているのです。本発酵とラガーリングのあと、ドゥシャス・デ・ブルゴーニュはオーク樽でさらに数ヶ月熟成します。ドゥシャス・デ・ブルゴーニュを作るためには、様々な樽で造られたものと年代の違うドゥシャス・デ・ブルゴーニュをブレンドします。そして特徴はなんといっても、100%オーク樽で造られるビールだということ。これを我々はフラマン語で「フォーダー」と呼びます。あの独特なフルーティーさのある特徴を与えているのは、オーク樽のタンニンによるものです。 ドゥシャス・デ・ブルゴーニュは、フレッシュな味とほどよい甘みを感じる、まさにルビーレッドの宝石なのですよ。
02. 酸っぱさの正体は一体なんなのでしょうか?
WHERE IS THE SOUR TASTE COMING FROM?
その正体はオーク樽です。我々が使用しているオーク樽は、フランスの最高級ワイナリーで購入する中古品を使用しています。また、このオーク樽でビールを熟成させる目的は、決してタンニンによる風味を求めているわけではありません。「酸っぱいビール」を手に入れることなのです。タンニンの風味は二の次ですよ。
“酸味”は、ビール中に存在するバクテリアの機能を停止させるので、ビールを安定させるのに適しているんです。中世の頃、ここベルギー西フランダースはフランスの一部でした。ホップが収穫できるベルギーの一部は当時ドイツに属していたので、ホップを入手することができなかったのです。そこで、西フランダースはビールを造るときにホップを使わない醸造法を生み出したのです。そして生み出されたオーク樽で熟成させる方法により、長期間保存と安定したビールを可能にしました。さらに、年代の違うビールをブレンドすることにより、甘酸っぱい香りでバランスのとれた複雑なビールが誕生し現在にいたります。
03. 酸っぱいビール市場はどう進展していますか?
HOW IS THE SOUR BEER MARKET EVOLVING?
酸っぱいビール市場は急成長しているんです。最近ではさまざまな種類の酸っぱいビールを見つけられますよね。購入する世界中の人たちにフランダース地方の酸味のある複雑な味わいのビールを見つけてもらえます。
ドゥシャス・デ・ブルゴーニュを含む全てのヴェルハーゲ醸造所のビールは「フレミッシュ サワーエール」または別名「フレミッシュ レッドエール」の愛称で呼ばれています。フレミッシュ サワーエールとは、オーク樽で熟成させたビールと年代の若いビールをブレンドしたものです。そしてオーク樽でさらに長期間ビールを熟成させます。甘みと酸っぱさのバランス、そしてフルーティーな甘酸っぱさをちょうどいいバランスで保たなければならない、非常に複雑なビールです。ドゥシャス・デ・ブルゴーニュをはじめとするヴェルハーゲ醸造所のフレミッシュ サワーエールは、130年以上にわたる職人技の結晶です!
マーケティングセール担当 カレル ブーン(Karel Boon)
醸造所:ブーン醸造所
代表ビール:ブーン・グース
01. あなたのビールのユニークな点は?
WHAT MAKES YOUR BEER SO UNIQUE?
ブーン醸造所が位置するのは、ブリュッセル近郊のゼネ川地域です。わたしたちは、この地域の空気中に存在する野生酵母で自然発酵をさせる、伝統的なランビック・ビールを造っています。特に重要な役割を果たしているのは、「ブレタノマイセス ブリュッセレンシス」、またの名を「ブレタノマイセス ランビクス」という名称の自然酵母です。開放冷却容器(冷却容器)内でビールを冷却している間に発酵させる野生酵母は、100〜1,000個の異なる酵母細胞から成り立つとてもユニークな混合酵母です。
空気中に存在する野生酵母は世界中どこにでもありますし、地域や場所の環境によって混合酵母も全然違うんです。ゼネ川地域に存在する100〜1,000個の野生酵母は、世界中でとてもユニークなんです。ですから、わたしたちが造る自然発酵ビールを他の地域で造ることなんて、絶対にできませんよ。たとえ実験室で酵母細胞を再生しようとしても、ゼネ川に存在する同じ割合の異なる酵母細胞を全く同じく生産することはできないんです。というわけで、わたしたちの造るビールは世界中のビールファンに人気があります。世界中の誰にもコピーできませんからね。
02. 酸っぱさの正体は一体なんなのでしょうか?
WHERE IS THE SOUR TASTE COMING FROM?
いい質問ですねー。非常に複雑な問題で、簡単に説明できることではありませんからね。
まず第一に、ブーン醸造所は「酸っぱいビール」を造ることを目的としていない説明をするのが重要でしょう。”酸味”が目的ではないのです。ただただ「野生酵母でビールを造りたい」という一心なのですよ。わたしたちが探し求めているのは、複雑でバランスのとれた酸味に加えて、果実味、ワイン風 / ウィスキー風の特徴をもつビール。オーク樽はワインやウィスキーのような特徴を出すのにとても適しているので、オーク樽は欠かせませんね。つまり酸味推しのビールではないのです。酸味推しだと、わたしたちが求めるフルーティーさやワイン風 / ウィスキー風の特徴を書き消しちゃいますから。
それでは、酸っぱさはどこからきているのでしょうか?バランスのとれた酸っぱいビールは、野生酵母によって発酵されることにより酸っぱくなり、さらにオーク樽でのビール熟成によるものです。
もしお酢のような酸っぱいビールだったら、お客さんはグラス1杯も飲まないでしょう。わたしたちが目指しているビールは、酸味のバランスが良くてお客さんが1杯以上飲みたくなるようなランビック・ビールです。
03. 酸っぱいビール市場はどう進展していますか?
HOW IS THE SOUR BEER MARKET EVOLVING?
酸っぱいビールの人気は世界中で高まっていますよね。ベルギー国内でもランビック・ビールの売上が伸びているんです。輸出市場でも、ランビック・ビールのみならず「酸っぱいビール」市場全体が成長しています。
あくまでもわたしたちの意見ですが、このような市場はブーン醸造所のようにバランスの取れた酸味では”ない”ビールが多いように感じます。それはある特定の人に人気なのでしょうね。ブーン醸造所がターゲットにしたい顧客は、フルーティーさと酸味のバランスがとれたランビック・ビールを探し求めている人、ブーンのビールをグラス1杯以上飲みたい、そして瓶ビールの入ったケースを買い占めて家で飲みたいと願う人が理想なんです。しかし気付いてしまったのですが、ほとんどの人はグラス1杯飲んだら次のビールに移りたい人がたくさんいるのです。彼らは毎回新しいビールを試してみては、極端な味と酸味を求めるタイプです。でもこの傾向はわたしたちが好きではない市場の変化です。わたしたちはバランスのとれた酸味のあるランビック・ビールを好み、毎回注文するビールがブーンのビールであるようなロイヤルカスタマーのほうを好みます。単に「ビールテイストハンター」を探しているのではなく「ランビックビール愛好家」を探しています。現にベルギー国内ではこのようなロイヤルカスタマーを目的に成功しましたよ。
20年間でランビック / グースビールの生産量は、170㎘から1700㎘までベルギーで増加したため、生産量は10倍になりました。ここ10年間、ブーン醸造所でも生産量は50%増加したんです。その結果、古い醸造所では生産能力が追いつかず、6年前に新しいビール醸造所を設置しました。
04. 料理とのペアリングでさらに酸っぱいビールを好きになる
Food x sour beer = great match!
ここまで読み進めてきたならば、酸っぱいビールを楽しむ準備はできてるはず。いよいよ料理との相性が気になるところ。酸っぱいビールといっても、その種類によって合わせる料理はメインディッシュからデザートまで幅広い。今回ご紹介するのは6つの代表的な酸っぱいベルギービールと、意外な料理との組み合わせ。これであなたは、酸っぱいビールマスターになれること、間違いなし!(・・・たぶんね!)
ローデンバッハ・グランクリュ
程よい酸味と上品な味わいが特徴的なローデンバッハ・グランクリュに合わせるなら、酸味も少し効かせたさっぱり系のこの料理がベストマッチ!
オリーブ
フォアグラ
ローストビーフ with バルサミコソース
天ぷら
ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ
上品な甘みの絶妙なハーモニーが特徴的なドゥシャス・デ・ブルゴーニュに合わせるなら、前菜やメインディッシュ、そしてデザートでも美味しく頂けるこの料理がベストマッチ!
サーモンのカルパッチョ
酢豚
肉じゃが
ヨーグルト
カンティヨン・クリーク
チェリーの甘みとランビック独特の酸味のバランスが特徴的なカンティヨン・クリークに合わせるなら、酸味のある爽やかなデザート系のこの料理がベストマッチ!
チーズパン
いちごパフェ
チーズケーキ
あんみつ
リンデマンス グーズ
木樽の香りが香ばしく、強い酸味とほのかな甘みが特徴的なリンデマンス グーズに合わせるなら、粉物から酸っぱい系のこの料理がベストマッチ!
チヂミ
餃子
もずく酢
タコと胡瓜の酢の物
リーフマンス・グーデンバンド
まろやかな酸味の中に、林檎やチェリーのような甘さが特徴的なリーフマンス・グーデンバンドに合わせるなら、酸味よりも甘みがほのかに強いこの料理がベストマッチ!
チーズ(特にゴートチーズ)
鶏肉のハニーマスタードソース
アップルパイ
今川焼き / たい焼き
ブーン・ランビック
自然発酵による爽やかな酸味が効いた、泡なしビールが特徴的なブーン・ランビックに合わせるなら、クリーミー系から日本人の大好きな料理がベストマッチ!
マッシュルームリゾット
サバの味噌煮(梅風味)
牛タン(ネギ塩)
寿司
「酸っぱい」と聞いて、少し抵抗感があったかもしれませんが、今はどうでしょう?酸っぱいビールの造り手の話から歴史、料理との相性で一気に親近感が湧いてきたところで、はい、次のステップ!実際に飲んで、体験してみよう!ベルギービールウィークエンドでは、選りすぐりの酸っぱいビールが数多く登場。詳しくはこちらへ!