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Story : Beer Trip

【SIP Trip】ビールの聖地の地下に、まさかの「白雪姫伝説」

ブリュッセルのグランプラスから歩いてほんの数分。かつての証券取引所の中に、ベルギービール好きならルンルン♬してしまう施設があるのをご存知だろうか?その名も「Belgian Beer World Experience(ベルギービールワールド・エクスペリエンス)」。実は筆者、ブリュッセル滞在中に次の予定までちょっと時間が空いたので「暇つぶしにでも」と軽い気持ちで立ち寄ったら——気づけば半日。次の予定にギリギリ滑り込むハメになった。それくらい沼った場所をレポートしたい。

しかも、この建物の地下にはまさかの「白雪姫」が眠っているらしい——なんて聞いたら、ますます気になってこないだろうか?施設の紹介とともに、2026年6月現在の料金や所要時間、白雪姫の謎、そして筆者がルーフトップで選んだ一杯まで。ビール通もそうでない人も、読み終わる頃には「ブリュッセルに行く際、寄ってみようかな」と思ってもらえたら嬉しい。

01.
舞台は“旧証券取引所”

From Stock Exchange to Beer Temple

このベルギービールワールド最大の特徴は、なんといってもその建物そのものだ。1873年に建てられたネオルネサンス様式の旧ブリュッセル証券取引所(La Bourse)を丸ごと改装し、2023年9月にオープンしたばかりの新しい施設である。今から153年前、日本ではまだ明治の世が始まったばかりの頃に建てられた建物が、令和の今ベルギービールの殿堂として生まれ変わっている——このギャップだけでもワクワクしてしまう。

ちなみに、料金について「いずれ無料になるらしい」という噂を耳にしたことがある人もいるかもしれない。調べてみたところ、2024年11月にブリュッセル市民限定で2週間の無料開放イベントが実施されたことはあったが、恒久的な無料化の予定は今のところ確認できなかった。市民向けの期間限定キャンペーンが噂として広まったのかもしれない。気になる人は公式サイトのお知らせをこまめにチェックしておこう。

威厳ある石造りの空間に足を踏み入れた瞬間、「ここ、本当にビールの展示施設?」と一瞬戸惑うほどの荘厳さ。筆者もこの“ギャップ萌え”にやられた一人だ。

02.
地下に眠る、白雪姫とビールの王様

Snow White and the King of Beer Beneath the Cellars

建物の地下には「Bruxella 1238」と呼ばれる考古学遺跡が眠っており、ベルギービールワールドのチケットがあれば見学できる。

13世紀のフランシスコ会修道院の遺構で、発掘された墓所の中にはブラバント公ヨハネ1世の墓とされるものが含まれている。実はこのヨハネ1世、後世「ガンブリヌス(ビールの王様)」として伝説化された人物で、施設内の音声ガイドも彼の名を冠している。

そしてもうひとつ眠っているのが、なんと「白雪姫」だ。16世紀のドイツ貴族令嬢マルガレーテ・フォン・ヴァルデックがモデルとされ、幼くして母を亡くし意地悪な継母に育てられ、ブリュッセル宮廷で絶世の美女と評判になりスペイン王太子に見初められるも、宗派の違いで叶わずに21歳でヒ素による毒殺で急死——彼女の故郷には大きな森や、子供や小柄な人々が働く鉱山もあったとされ、童話の「森」や「7人の小人」のモチーフとも重なるという。「美しい娘・意地悪な継母・森・小人・毒」、白雪姫の要素が見事にそろっている

ただし正確には、遺跡に「ここが彼女の墓です」と示す棺や像があるわけではない。当時の女性の遺体は記録に残らないことが多かったため、多数の女性の遺骨の中から彼女のものを特定するのは難しいだろうと専門家も語っている。それでも、ビールの王様と白雪姫が同じ地下室に眠っている(かもしれない)この組み合わせ、ロマンがありすぎる。

🤫余談….
面白いのが、この話、ブリュッセル側があまり活用しきれていない隠れたネタらしいということ。実はこの説を調べ上げたドイツ人研究者が旧証券会社運営側に連絡したところ、マルガレーテがブリュッセルに滞在していたこと自体は知っていても、彼女が「白雪姫のモデル」だという説には誰も気づいていなかったのだとか。一方、彼女の故郷であるドイツ・バート・ヴィルドゥンゲンでは、すでに「白雪姫の里」として町おこしに使われている。グランプラスのすぐ裏にこんな世界的に有名な童話との接点が眠っているのに、ブリュッセル側はまだそれを観光資源として大々的にアピールしていない——筆者からすると「これ、もっと宣伝した方がいいのでは?」と思わずツッコミたくなる、なんとも“もったいない”隠れ話だった。

03.
音声ガイドは「ビールの王様」がナビゲート
Discovering Belgian Beer with King Gambrinus

施設のコンセプトは一言で言うと「体感するベルギービール史」。約90分の没入型コース(音声ガイドは8言語対応、日本語はないが英語ならOK)で、原材料(水・麦芽・ホップ・酵母)の部屋、醸造家たちの哲学に迫る部屋、ベルギービールがなぜ世界でこれほど多様なのか——UNESCOの無形文化遺産に登録された理由までを、触れて、見て、時には香りを嗅ぎながら学んでいく構成だ。

正直なところ、レビューを見渡すと「デジタル演出が多くてやや散漫」「子供向けの仕掛けが目立つ」という声もちらほら見かけた。実際、ベルギービール通からすると「もう少し硬派な情報が欲しい」と感じる瞬間もあるかもしれない。それでも筆者の体感としては、ビールにそこまで詳しくない人でも「ベルギービールってとにかく凄いんだな〜!」ということが、笑っちゃうくらい伝わってくる情報量だった。教育としての間口の広さは、さすが国を挙げての“ビール推し”だと思う。

04.
ホップの香りに、予想を裏切られる

The Unexpected Aroma of Hops

筆者は音声ガイドも使わず、ひとりでマイペースに館内を巡っていたのだが、それでもちゃんと体験できたのが2回の試飲(小グラス)。これはツアー参加の有無に関わらず、該当コーナーを通りかかれば誰でも味わえる仕組みになっている。

中でも印象的だったのが、いろいろな種類のホップの香りを実際に嗅げるコーナー。てっきり「草っぽい」「土っぽい」匂いを想像していたら、実際は全然違った。ある種類は「もぎたてのグレープフルーツの皮を、目の前で『ピシャッ』と弾いた瞬間」のような、フレッシュでフルーティーな柑橘の香り。また別の種類は「高級セレクトショップの香水売り場」を思わせる、華やかで上品な香りだった。ビールの香りづけに欠かせない存在であるホップ、なるほど納得である(ちなみにホップには防腐剤としての役割もある)。
考えてみれば、普段の生活で本物のホップを見る機会なんてほぼない。こういう場所でリアルなホップに触れられるのは、ビール好きとしてはかなり貴重な体験だった。

05.
見たことのないビールたちとの遭遇

Beyond the familiar beer brands

筆者が一番興奮したのはここだ。BBWで毎年お馴染みの顔ぶれ——シメイやデュベル、プリムス、オメールといった“知ってる”ベルギービールはもちろん、現地ベルギーでしか出会えないような、聞いたことも見たこともない地ビールがずらりと展示されていたこと。ベルギーには大小合わせて世界でも類を見ないほどの数のブルワリーが存在すると言われており、その奥行きの深さを、文字通り「壁一面のビール」で体感できる仕掛けになっている。

「ベルギービールはもう全部知ってる」と思っているビール通ほど、この施設で新しい一本に出会ってしまうのではないだろうか。筆者自身、ベルギービール歴15年、BBW歴13年携わっているが、それでも初耳の銘柄がいくつもあった。これだから、この世界は抜け出せない。完全に沼。

06.
筆者が選んだのは、ローデンバッハ

Rodenbach with a Rooftop View of Brussels

そして、締めくくりに待っているのが、ブリュッセル随一とも言われるルーフトップバー「The Beerlab」だ。150種類以上のベルギービールの中から、自分の好みに合わせて1杯(33cl)を選べる——しかもチケット代に含まれているという太っ腹仕様。屋上からは市庁舎の尖塔の向こうに広がるブリュッセルの旧市街、そしてグランプラスの一角まで見渡せる。

夕暮れ時の景色、ロマンチックな空。今回選んだのは、ローデンバッハ(Rodenbach)。フランダース・レッドエールが好きな筆者にとって、せっかくならとチョイスした一杯だ。グラスのサイズもちょうどよく、景色を眺めながらじっくり、ゆっくり——まさにこのマガジンの名前「SIP(少しずつ味わう)」するように楽しめた。オーク樽で熟成させたあの独特の酸味とまろやかさが、建物の歴史を全身で感じたあとの一杯にぴったりだった。

🤫ちなみに…!
このルーフトップ、実はベルギービールワールドのチケットがなくても、夕方16時以降は単独で利用可能。「ツアーまでは時間がないけど、絶景でビールだけ飲みたい」という人にもこっそりおすすめしておきたい◎

07.
所要時間と、行くべきかどうか
How long does it take, and is it worth the detour?

気になる所要時間だが、館内ツアー自体は90分前後、ルーフトップでゆっくり過ごす時間まで含めるとトータル2時間程度を見ておくと余裕がある。レビューを見ても「気づいたら2時間経っていた」という声が多く、駆け足で回るというよりは“じっくり味わう”タイプの施設だ。

料金は2026年6月現在、大人€21.50(約3,950円)、シニア(60歳以上)€19.50(約3,590円)、学生(16〜25歳)€15.50(約2,850円)、子供(4〜11歳)€8.00(約1,470円)、3歳以下無料(1ユーロ=約184円で換算、レートは日々変動するため目安として)。
これにBruxella 1238の遺跡見学とルーフトップでの1杯が含まれていることを考えると、コストパフォーマンスは決して悪くない印象だ。アトミウムやフリッツミュージアム、チョコレート博物館とのコンビチケットも用意されているので、他の観光と組み合わせやすいのもありがたい。

もちろんレビューには厳しい声もある。「デジタル展示の説明に反復が多い」「思ったより小さなグラス1杯しか試飲できなかった」といったコメントも見かけた。万人受けする完璧な施設というわけではないが、それでも全体としての満足度は高い印象だ。

日本人観光客におすすめできるかと聞かれたら、間違いなくYESだ。グランプラスから徒歩圏内という立地の良さに加え、英語の音声ガイドがあるので言葉の壁もそれほど高くない。音声ガイドがなくて、歩き回って展示物を見るだけでも大いに楽しめる。特に「ベルギービールウィークエンドが好きで、もっと知りたい」という方や、「ブリュッセル滞在中に時間がある」「ビール初心者だけど、せっかくなら知りたいな」という方には、ぴったりの寄り道スポット。

More info

  • Address: Boulevard Anspach 80, 1000 Brussels(旧証券取引所「ブルス」内)
  • Hours: 月〜木・日 10:30〜19:30(最終入場18:30)/金・土 10:30〜20:30(最終入場19:30)
  • Website: belgianbeerworld.com
  • Access: 中央駅から徒歩圏内。メトロ De Brouckère駅、トラム/バス Bourse停留所からすぐ
  • Ticket: 大人 €21.50〜(オンライン購入推奨)

ブリュッセルに滞在するなら、グランプラス観光のついでにぜひ寄り道してみてほしい。証券取引所だった荘厳な建物の中で、ベルギービールの歴史と多様性を全身で浴び、地下では白雪姫とビールの王様に両手を合わせて挨拶、最後はルーフトップで景色と一緒に一杯——「暇つぶしのつもりが気づけば半日」になるのも、納得していただけるはず。

次にブリュッセルを訪れる予定があるなら、ぜひスケジュールに余裕を持たせて訪れてみてほしい。

Cheers! 🍻

✍️ Keiko

ベルギービールウィークエンド事務局 コンテンツマネージャー

ベルギービールに出会って15年、BBWに携わって13年目。ベルギーでの1ヶ月間の滞在経験を持ち、ベルギービール、食文化、音楽などベルギーのカルチャーをこよなく愛する。現地取材、醸造所巡り、イベント運営を通じて、その魅力を発信中。ベルギービールプロフェッショナル認定資格保有。

Instagram: @keiko.shio

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